激闘記録 第八章第11話「フィフス・エレメント(あさがやサイド)」

本章第1話でミニ四駆レースに出ると言っただけなのに、なぜか優勝宣言をしたことになっている私ことあさがやは、完走することだけを目指していただけのマシンを作っていた。
そのせいで最初の方は相手にスピードで負けっぱなし。
他の連中にいいように煽られた挙げ句、いつの間にかスピードマシンを作ってはコースアウトのくり返しという結果を続けてしまう。
 
スピード重視のセッティングというのはもちろんアリだと思うが、やはり原点に戻って完走を目指そう。
それに加え、本番のコースを入念にチェックし、練習走行をすることが大事である。
セッティングもあわせられるし、何より場の雰囲気に早く慣れることができる。
 
いつもより早い時間に集合するよう提案したところ、みんなは快諾してくれたようだ。
 
 
そして、決戦の日が来た。
●集合場所

集合場所は駅の売店の前。
レースイベントの際は決まってここに集合する。
誰が決めたわけでもなく、いつしか無意識のうちにここに集合するようになった。

「やぁ、さわやかな朝だね♪今日もがんばろう」

コーヒーを飲みながら朝日に負けないくらいまぶしい笑顔を振りまいたが、なぜか連中の顔は曇りのち雨。
そうか、このコーヒーが欲しいのか。
でもあげるわけにはいかない。
電車に乗るよりも優先して買った大事なコーヒーだからね。
それを説明した瞬間、努力した能力者なら電撃を発しそうな雰囲気だったので、目的地へ急ぐことを提案した。



●浅草ROX



浅草の地へやってきたのは9月28日以来。
激闘でいうと第八章第9話(下)だ。
最終回だと思ったら上下の二話構成だったり、掟破りの第10話以降が続いたり、なんていい加減な作者なのか。
え?あぁ、作者というのはおかしいな。ノンフィクションなのだから。

ここは何かと因縁がある。
我が愛車、越前の公式戦デビューもここだった。
余韻に浸っている間もなく、P-Mはさっさと販売コーナーへ。
カトリはコースを見ながら「越前終わったな」という意味不明なセリフを繰り返している。
まだ始まってもいないぞ。
あと、2人の役割は逆じゃないのか。
P-Mのヤツめ。よほど前回のアバンテMk.IIIアズールのレッドメタリックがショックだったと見える。
だからいつも早めの時間に来いと言っているのに。



●練習走行



本番コースで練習走行をすべくコースを見ると、スタート地点から多くのレーサーが並んでいた。
なるほど。
昔は適当に走らせることができたが、並ばなければいけないのだな。
前から知っていたから別に言わなくてもいいが、話の展開上、説明口調で言ってみた。
こういう雑務はカトリがやればいいんだ。

迷っていても仕方がないので、越前を持ってその列に並ぶ。
今日は秘策を講じたから、コースアウトだけは確実にないと断言できる。
無意識のうちに勝利の笑みを浮かべていたら、いつの間にか販売コーナーから戻ってきたP-Mが、汚いものを見るような目でこちらを見てきた。
その後、何か言ったかと思うと、カトリも同じ目で見てきた。

出番が回ってきたようだ。
しかも指定席の3コース。
アホになるべきだと思いナベアツの物まねをしたが、連中は別の方向を見て談笑していた。
これは若干恥ずかしいが、逆に言えばレースもノーマークということだ。
シグナルにあわせて越前をコースに送り出してじっと成り行きを見つめると、デジカメでマシンを追うP-Mと、その横で爆笑しながら指をさすカトリの姿が視界に入った。
後方から迫る敵を警戒しつつ、味方を鉄壁のように守る重要なポジションだぞ。文句あるか?



●レース前



越前(第五形態)

越前の最終セッティングに着手だ。
第四形態との差分はマスダンパーとセッティングウェイトの増設。
あとはフロントホイールを大径ウェンウェイホイールWT、リヤを太い方に変更した。

かなりの改修といっても過言ではないな。

P-Mが先ほどの練習走行について熱心に聞いてくる。
「あの高い安定性はどこから来ているのか。セッティングの参考にしたいから教えて欲しい」
だとさ。
「ノーマルモーターを使っただけだ。完走を目指すのを優先とする安全重視の作戦だ」と説明してやったら、シンジラレナーイとでも叫びそうな顔をした。
P-Mの前では誇らしげに語っておいたが、ヤツの反応から何かとんでもない作戦ミスをしているようなオーラを感じ取ったので、こっそりと販売コーナーでトルクチューンモーターを購入。
アイツらに見つからないようにブレークインを済ませて、ノーマルモーターと交換しておいた。



●レース

「大丈夫。コースアウトなんて絶対にしないから」

心配するカトリに背を向け、いざ車検場へ。
P-Mの痺れるという声が聞こえたが、そこまで褒められると照れるしかない。
車検をすんなりとパスし、今日は…2レーン!!3レーンの呪縛を逃れることに成功した。
どこからスタートかと心配してこちらを見ているようなので、2レーンだと指で合図しておいた。
またも連中の反応が芳しくないが、巷で話題のクーデレってやつかな。


「はい、じゃあ準備OKですね。シグナルが青になったらスタート!それでは…」

レディ…ゴー!!


写真はイメージです。

1コースのマシンがスタートダッシュを決める。
その他4台が団子状態となり、連続S字コーナーを駆け抜けていった。
やはりトルクチューンモーターに変更して正解だったな。あさがやGood Job!



魔のテーブルトップもクリアし、いつの間にか越前がトップで2周目に突入。
え…?と、目を疑ったが、どうやらトップを走っていたマシンがコースアウトしたらしい。
他の3台も大きく引き離し、まさに独走状態。
そして2周目のテーブルトップも余裕で突破した。よし、初の1位通過が見えてきたぞ。
これはいけるか!?



3周目のテーブルトップも難なくクリ…あ!あぁぁぁあああ!!

あさがや、3周目でコースアウト!!


完全にいったと思ったのに!
まさか!!なぜ?どうして?

遠くからP-Mとカトリが哀れむような目でこちらを見ている。
トルクチューンモーターに変更して失敗だったな。P-M許すまじ。