激闘記録 第九章第6話「バトラーズギャラリー2009」

7月某日

何かがおかしい。
何となく、そんな気がした。
テレビに映る試合は、俺とはまったく縁のゆかりもない市同士の戦いだが、負けているほうを何となく応援している気分でいると、これまた何となくそろそろカトリが騒ぎ出すような気がした。

346「P-M、でんわ〜」
P-M「言われんでもわかっている」

電話を取る。

カトリ「あんた土曜日暇でしょ。9時ジャストにいつもの場所集合だから。ちゃんと来なさいよ」
P-M「切れた。一言も喋っとらんのだが…」

ため息混じりに電話を置こうとした矢先、再びそれは鳴り始めた。
またしてもカトリだった。

P-M「なんだ」
カトリ「持参物を言い忘れてたわ。水着一式、それと充分なお金ね。あと、必ずミニ四駆を持ってくること。オーバー♪」
P-M「切れた。だから一言も…」

カトリが何を言い出すのか、また何となくわかっている気がした。
いや、違うな。
正確には、前にもまったく同じことがあった気がした、だ。
いわゆる、デジャブってやつか。
いかんいかん。寝ぼけているのか、夏バテのどっちかだな。
8月1日

カトリ「遅いぞ、P-M。もっとやる気を見せなさい!」
P-M「時間ぴったり…もとい時間通りに来たつもりだが」
カトリ「あさがやなんてオレが来る前にはしっかり到着していたぞ」
P-M「すいません、あさがやさん…って、姿が見えないようだが」
カトリ「いない…ねぇ」
あさがや「いやぁ、お二人さん。そろっているかい?」
カトリ「1分遅刻だ!」
あさがや「1分くらい大目に見てよ。前後30分は遅刻に入らないでしょう?
P-M「30分とは大きく出たな。あさがやは時間に余裕を持って集合しなさい。人のことは言えんが



●東武百貨店池袋店



カトリ「さすがにエスカレーターで登ったのはキツいな…」
P-M「トルク不足だな」
カトリ「だが!くたばっているヒマはないッ」
あさがや「サーイエッサー」
P-M「そうだな。せっかく来たことだし、じっくりと展示品を眺めようか。まずはシトロエンから」
カトリ「ふぅ…やれやれ。コレだから素人は」
あさがや「我々が直行すると言ったら販売コーナーしかないでしょう。恥ずかしいなぁ」
P-M「何か諭すような空気を醸し出しているが、キミたちが変なことを言っているんだからね!」
カトリ「はぁ。話がわからんヤツだ。さっさと展示コーナーに行きたまえ」
P-M「言われなくても行きます!」


販売コーナー



カトリ「7月はパーツがたくさん発売されて散財したし、今日は控えめにいこう」
あさがや「いきなり弱気なセリフをはき出したな。ディフェンディングチャンピオンが相手じゃ分が悪いか」
カトリ「エアブラシで底上げしたニセチャンプが笑わせる。そんな安い挑発には乗らんぞ」
あさがや「何を言うか。塩を送ってやったのさ」
カトリ「そういいながら、カゴの中はパンパンだぞ」
あさがや「そちらこそ喋りながら商品をカゴに入れるその技。ますます磨きがかかってきたな」



P-M「(ワイルドミニ四駆も展示されている。久しぶりにレースでもやろうか)」
カトリ「お待たせ♪」
あさがや「今日のところは引き分けだった」
P-M「報告しなくてよろしい。またそんなにたくさん買って」
カトリ「…」
P-M「あれ、カトリ。そのワイルドミニ四駆どうしたの?」
カトリ「買った」
P-M「そうか。(心の中読まれた!?)」
あさがや「凄いんだよ。カトリの目が光ったら、15万円のキットを5万円で売ってくれて」
カトリ「どこのギターだよ。大体15万円もするキットなんてないし」



ミニ四駆コース



あさがや「スロープつきでましたよ」
カトリ「どうやらレースは13時からのようだな。それまで練習しておくか」
あさがや「今日の越前はひと味違うさ。見ろ、この走りを」
カトリ「お…」
P-M「…遅い!!
あさがや「あれ〜…おっかしーなー♪」
P-M「しかもコースアウトしてブリッジの下にめり込んだぞ」
あさがや「急いでセッティング変更じゃー」
カトリ「やはりというか、当然というか、スロープの下りが要注意ポイントだな」
P-M車高を低くするのと、フロントを重くする。あとはマシンの浮きを防ぐMSシャーシマルチブレーキセットが有効か



P-Mこのようにな!
カトリ「む!さっそく1260円という高価HGカーボンリヤワイドステーと、7月に発売されたばかりのMSシャーシマルチブレーキセット、さらに写真では見えないがフロントにもHGカーボンフロントワイドステー(N-03ユニット用)を装着してきたか!!」
P-M「今度のは金剛不壊に出来てる?それは莫逆の友になるか、贄か供御となるか」
カトリ「は、速い!そして安定しているッ!?」
P-M「素敵滅法!我がマシンが根堅洲国から帰ってきた!」
カトリ「これまで散々だったからなぁ。今日くらい出番をくれてやるか」
P-M「…」
カトリ「どうした?」
P-M「居るのか…妖異幻怪の気形が!!」
あさがや「越前、セッティング完了だじぇ」



越前(お好み焼きバージョン)
前回との差分はフロントのマスダンパーの取り付け方変更、マルチブレーキの追加、ホイール、タイヤの変更。

P-M「ハネムーンとロマンスくらいの違いだな」
カトリ「さっさと荷物畳んで帰れよ」
あさがや「イヤだよ!これからレースに出るんだから!!」
カトリ「では、このマシンを倒してから行くがよい」



トルクルーザー(もんじゃ焼きバージョン)
前回との差分はリヤにごちゃごちゃしたのがついたくらい。

P-M「チャンピオンとラブハントくらいの違いだな」
カトリ「ちょっと!ごちゃごちゃしたのって説明が適当過ぎる!」
あさがや「さっさと荷物畳んで帰れよ」


カトリ「レースに出る前に3人で走らせないか?」
あさがや「まぁそこまで頼まれちゃ仕方ない。このレースに全てを賭けるぜ」
カトリ「練習走行に砕け散るつもりか?別に構わないが」
あさがや「よし、じゃあさっさとやりましょう」



カトリ「ま、負けた…」
あさがや「今日のP-Mは完璧だ」
P-M「無聊を託つ。キサマらの新セッティングは厄介だと聞いてうきうきしてたけど、乏しいな。闕望したよ。そろそろ御戸開きといこうか…」



●レース

あさがや「よし、まずは大本命あさがや様だじぇ」
スタッフ「スタッフの合図でスタートですよ。それでは…」

レディ…ゴー!!

カトリ「微妙にスタートが遅れた!」
P-M「最初の上りスロープ…」

あさがや、コースアウト!!

カトリ「一周目、というよりも半周持たずに爆死したー!!」
P-M「海底に沈め…」


あさがや「やっちまったー」
カトリ「あさがやには期待していなかったからいいや。さぁ、次はP-Mか」
P-M「昏鐘鳴の音が聞こえるか?」
カトリ「あの雰囲気…。今日はやりそうだ…」

スタッフ「スタッフの合図でスタートですよ。それでは…」

レディ…ゴー!!



カトリ「一周目、余裕でクリア!このままいくとトップでゴールするぞ」
あさがや「今日はP-Mの支配からは逃れられないのか!?」
カトリ「二周目に突入。スロープに入った」
P-M海底撈月!!

P-M、コースアウト!!

P-M「烏滸言を!!」
カトリ「練習走行で一度もコースアウトしたことがなかった、上りのスロープで吹っ飛ぶとは!」
あさがや「今日は鉄板な雰囲気だったのに」


P-M「おじゃんでございます」
カトリ「最後はオレだよ、カトリだよ」
あさがや「やさしさも わがままも 温もりも 寂しさも 思いやりも 全てを 全部あずけた」
カトリ「重いよ!気軽に走らせてくれ」

スタッフ「スタッフの合図でスタートですよ。それでは…」

レディ…ゴー!!

あさがや「トルクルーザー、調子いいな」
P-M「しかし、周りはレンタルマシンだ。これは雰囲気的に勝ちにくいな」
あさがや「二周目に入って、鬼門の上りスロープを…抜けた!」



P-M「下りにさしかかる。コレは勝ったか!?」



P-Mあさがやえぇ〜っ
あさがや「何これ!?」
カトリ「周りの空気に耐えられなかった…」
あさがや「もうムシケラとしか言いようがないじゃん」
カトリ「誰がムシケラか」
P-M「で、つまるところ、コースアウトしたのを隠したかったと」
カトリ「はい、私が全てやりました…」
あさがや「なんだよもう。結局3人とも爆死かよ」
カトリ「全然ダメだな。ワレワレ」
P-M「うん?」

また、あの妙な感じだ。
なぜかあさがやが勝ち誇ったようにしている感覚が一瞬流れる。
この光景、何度も見たことがある!

デジャブ−







と思ったが、ただいつも同じような負け方をしただけじゃないか。
それよりも、水着を持ってこさせたのは何の意味があったのだろう。謎だ。